不動産を生前贈与するメリットは? 税制の仕組みや手続きの流れを解説
相続・不動産投資
2026.09.03
更新日 2026.09.04
土地や建物を所有している場合、生前贈与で不動産を引き継がせる方法があります。生前贈与には、相続時のトラブルを防ぎやすいなどのメリットがある一方、贈与税や不動産取得に伴う費用などが発生する場合もあります。
本記事では、生前贈与の基礎知識と主なメリット、税制の仕組み、手続きの流れについてまとめました。不動産の引き継ぎ方法に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
目次
生前贈与とは?知っておきたい基礎知識
生前贈与とは生存中に自分の財産を人に分け与えることです。財産を渡す側を贈与者、受け取る側を受贈者といい、双方の合意があれば成立します。
なお、生前贈与は、相続が発生する前に財産を贈与することを指す一般的な表現です。贈与税の課税方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」があり、一定の要件を満たす場合は相続時精算課税を選択できます。
生前贈与に関係する贈与税の課税方法については、後述します。
※参考:国税庁.「No.4103 相続時精算課税の選択」. ,(2025-04-01)
不動産を生前贈与する主な3つのメリット
不動産を生前贈与すると、一般的な相続と比べて以下のような3つのメリットが期待できます。
相続時のトラブルを防ぎやすい
生前贈与の大きなメリットの一つは、相続時のトラブル回避に役立つ点です。不動産は現金のように細かく分けることが難しいため、相続においてさまざまな問題が生じやすい資産といえます。
例えば、法定相続人のうち特定の一人が不動産を相続することになったものの、その不動産の評価額が法定相続分を超えていたとします。この場合、遺産を法定相続分通りに分けるには、不動産の相続人が他の法定相続人に対し、差額を支払わなければなりません。これは代償分割と呼ばれ、一般的に現金で支払うため、不動産の相続人は相応の現金を用意しておく必要があります。
もし相応の現金を用意できない場合や、法定相続人全員が不動産の相続に抵抗を示した場合は、不動産を売却して現金化した上で分割する方法(換価分割)や、不動産を法定相続人全員の共有名義にする方法が検討されます。換価分割は公平に遺産分割してトラブルを防止できるメリットがある反面、希望額で売却できない可能性や売却までに時間がかかる点がデメリットです。
また換価分割による売却のタイミングには法的な制限はないものの、相続税は相続開始から10カ月以内に納税する義務があります(※)。たとえ換価分割が終了していなくても、不動産の相続税評価額に基づいて算出された相続税を各法定相続人が納めなければならない点に注意が必要です。
一方で不動産を共有名義にする場合は、将来売却する際に名義人全員の合意を得る必要があります。さらに名義人のいずれかが亡くなって権利が相続されると、関係者が増えたり所在が不明になったりして、売却が困難になるリスクもあります。
このように不動産の相続はさまざまな問題が発生しやすいため、遺産分割協議ではしばしばもめ事の種になりがちです。生前贈与を活用すれば、所有者の意思に基づいて生前に特定の人へ不動産を引き継げるため、相続時のトラブルを未然に回避できます。
※参考:国税庁.「No.4205 相続税の申告と納税」. ,(参照2026-04-07).
遺言書との関連性と注意点
相続トラブルの防止という観点では、遺言書の作成も有効な手段です。遺言書を作成しておくことで、特定の相手に財産を引き継ぐ意思を示すことができます。そのため、「遺言書があれば生前贈与は不要ではないか」と考える方もいるかもしれません。しかし生前贈与にはトラブル対策以外にも複数のメリットがあり、単純に遺言書で代替できるものではありません。さまざまな観点から総合的に判断し、生前贈与をするか否かを検討することが重要です。
また生前贈与を行う場合でも、遺言書を作成しておくことは、相続時のトラブルを防ぐうえで有効です。生前贈与された財産は、一定の条件に該当すると相続税の計算上、相続財産に加算される場合があります。また、生前贈与が他の相続人の遺留分に影響する場合もあるため、不動産を贈与する際は、他の相続人への影響についても確認しておくことが大切です(※)。
このような事態を防ぐには生前贈与を行う段階で他の法定相続人と十分に話し合い、贈与の内容について事前に承諾を得ておくことが大切です。その上で、生前贈与の内容を踏まえた遺言書を作成しておくと、より円滑な相続につながるでしょう。
※参考:国税庁.「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」. (2025-04-01).
資産の増加を抑えることで相続税対策につながる
収益性のある賃貸物件を所有している場合、生前贈与によって不動産とその後の賃料収入を早い段階から子や孫に引き継ぐことで、将来的な相続財産の増加を抑えられる可能性があります。ただし、生前贈与には贈与税などが発生する場合があるため、相続税だけでなく、贈与後に発生する税金や費用も含めて検討することが大切です。
ただし、受贈者に賃貸経営の知識や経験が不足している場合、収支が悪化し物件が負担となる恐れもあります。そのため、収益性のあるマンションなどを生前贈与する際は、信頼できる不動産管理会社やマンション管理会社を選定するなど、適切な運用体制を整えておくことが重要です。
評価額の上昇リスクへの対策になる
将来的に不動産の評価額が上昇する見込みがある場合、生前贈与を行うことで相続税対策につながる可能性があります。相続税や贈与税を計算する際、不動産は一定のルールに基づいて評価されます。土地と建物では評価方法が異なり、マンションなどについては物件の種類によって評価方法が異なる場合があります。
<建物> 固定資産税評価額 × 1.0で評価(※1)
なお、固定資産税評価額は地価公示価格の7割を目途に計算されます(※2)。このことから、不動産の評価額は地価公示価格の動向によって左右されるわけです。
地価公示価格は全国の標準地を基に計算され、その時々の不動産市場の状況が反映されます。例えばインフラ整備や再開発に伴って地域の利便性や価値が高まると、公示価格も上昇しやすいです。このように将来の地価上昇によって不動産の評価額が高くなると、結果として税負担も増加する可能性があります。
そのため評価額の上昇が見込まれる場合には、早い段階で生前贈与を行うことで、将来的な相続税の軽減が期待できるでしょう。ただし地価の動向は予測が難しく、想定に反して下落する可能性もあります。その場合、結果として税負担が不利になることもあるため、慎重な判断が求められます。
※ 1参考:国税庁.「No.4602 土地家屋の評価」.,(2025-04-01)
※ 2参考:総務省 自治税務局 資産評価室.「固定資産評価のしくみについて(土地評価)」4. ,(参照2026-04-07)
生前贈与における税制の仕組み
生前贈与を行った場合、贈与された課税対象の資産には贈与税が課されます。贈与税には計算方法や課税方式に2つのパターンがあるため、それぞれの特徴を理解しておくことが重要です。
ここでは、贈与税の基本的な計算方法と課税方式について詳しく説明します。
贈与税の計算方法
贈与税は贈与があった年の1月1日〜12月31日までの1年間に受け取った財産の価額の合計額から、基礎控除額110万円を差し引いた金額に課されます(※)。なお、適用される税率や控除額は、贈与者と受贈者の関係によって特例贈与財産と一般贈与財産の2つに区分されます。
※参考:国税庁.「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」. ,(参照2026-04-06)
特例贈与財産の場合
特例贈与財産とは贈与年の1月1日時点で18歳以上の子や孫が、父母や祖父母などの直系尊属から受ける贈与です。
特例贈与財産の場合、贈与税は以下の速算表に基づいて算出されます(※)。
基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% -
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円
一般的な税制度の仕組みに基づく一例として、贈与時の評価額が1,000万円の不動産の贈与を受けた場合、基礎控除後の課税価格は1,000万円 - 110万円 = 890万円です。このときの贈与税は、以下のように算出されます。
890万円 × 30% - 90万円 = 177万円
※参考:国税庁.「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」.(2025-04-01)
一般贈与財産の場合
一般贈与財産とは特例贈与財産に該当しない贈与です。例えば、兄弟間の贈与や夫婦間の贈与などがこれに該当します。また親子間の贈与であっても、受贈者である子が18歳未満だった場合は特例贈与財産には該当しないため、一般贈与財産として扱われます。
一般贈与財産の場合、贈与税は以下の速算表に基づいて算出される仕組みです(※)。
基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% -
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円
一般的な税制度の仕組みに基づく一例として、贈与時の評価額が1,000万円の不動産を贈与された場合、基礎控除後の課税価格は1,000万円 - 110万円 = 890万円となります。この場合の贈与税額は、次の通りです。
890万円 × 40% - 125万円 = 231万円
このように、同じ課税価格であっても一般贈与財産は特例贈与財産に比べて税負担が大きくなる点に注意が必要です。
※参考:国税庁.「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」(2025-04-01)
贈与税の課税方式
贈与税には、暦年課税と相続時精算課税の2つの課税方式があります。
それぞれ贈与者と受贈者の条件や非課税枠の適用要件が異なるため、相続時精算課税の制度を利用できる場合には、暦年課税とどちらを選ぶか慎重に判断するべきです。
暦年課税
暦年課税とは毎年110万円の基礎控除が適用される課税方式です。税率は前述した特例贈与財産または一般贈与財産に基づき、10〜55%の8段階で設定されています。贈与者と受贈者の関係にかかわらず、親族間でも第三者からの贈与でも利用可能です(※)。
暦年課税では、相続開始時期に応じて、一定期間内に受けた贈与財産が相続税の計算に加算されます。2026年12月31日までに相続が開始した場合は原則として相続開始前3年以内が対象ですが、2027年以降は段階的に加算対象期間が延長され、最終的に相続開始前7年以内が対象となります(※)。
また不動産相続で暦年課税によるメリットを受けるには、不動産の持ち分を小分けにして毎年贈与することになります。しかし、不動産を生前贈与する場合は、現金の贈与とは異なり、所有権移転登記などの手続きも必要になります。
この場合、毎回不動産登記を行う必要があるため、登記手続きの手間や費用がかかる点がデメリットです。そのため、贈与税だけでなく、登記にかかる費用なども含めて、どのような方法で不動産を引き継ぐか検討することが大切です。なお、贈与を複数年に分けて行う場合でも、贈与の方法や契約内容によって税務上の取り扱いが異なる場合があります。不動産の持分を分けて贈与する場合は、税理士などの専門家に確認することをおすすめします。
※参考:財務省.「贈与税に関する資料」. ,(参照2026-04-07).
相続時精算課税
相続時精算課税制度とは、一定の要件を満たす場合に選択できる贈与税の制度です。贈与時には年間110万円の基礎控除と、累計2,500万円の特別控除が設けられており、特別控除を超えた部分には一律20%の贈与税がかかります。贈与した財産は、原則として贈与時の価額を基に、将来の相続税の計算に加算されます(※)。
相続時精算課税制度のメリットは、大きく分けて2つあります。
1つ目は、短期間にまとまった金額を贈与しても贈与税の負担を抑えられることです。暦年課税では、贈与税の負担を抑えるには毎年基礎控除内で贈与を行う必要がありますが、相続時精算課税制度であれば評価額が2,500万円以下の不動産なら、贈与税の負担なしで一気に贈与できます。ただし、基礎控除や特別控除が適用された分は相続時に資産として合算されます。
2つ目のメリットは、相続時精算課税制度では相続財産の計算時に贈与時点の評価額が適用されることです。贈与後に不動産の価値が上昇しても、その増加分は相続税に反映されないため、相続時の税負担を軽減できる可能性があります。一方で、一度相続時精算課税制度を選択すると暦年課税に変更できない点や、贈与税の申告が必須であることに注意が必要です。
暦年課税の場合、基礎控除の範囲内であれば原則として申告不要です。相続時精算課税制度を初めて選択する場合は「相続時精算課税選択届出書」の提出が必要です。また、相続時精算課税の対象となる贈与額が年間110万円を超える場合などには、贈与税の申告が必要になります。手続きの負担も考慮して制度を選択することが大切です。また利用には条件があり、贈与者が60歳以上かつ受贈者が18歳以上の子や孫である必要があります。これらの要件を満たさない場合は暦年課税のみが適用されるため、利用できるケースが限られる点も注意が必要です。
※参考:財務省.「贈与税に関する資料」. ,(参照2026-04-07).
生前贈与の基本的な手続き
生前贈与を行う場合の基本的な手続きは、以下の通りです。
1. 受贈者や関係者の合意を得る
2. 贈与契約書を作成する
3. 財産を贈与する
4. 贈与税の申告・納税を行う
生前贈与は贈与者と受贈者の合意によって成立する契約になります。そのため、まずは受贈者の合意を得ることが最初のステップです。また受贈者以外の法定相続人にも贈与の内容や意図を説明し、理解を得ておくとトラブル防止につながるでしょう。
次に、贈与の内容を記した贈与契約書を作成します。生前贈与において契約書は必須ではありませんが、書面として残しておくことで将来的な争いを避けやすくなるでしょう。その後、財産に応じて贈与手続きを行います。不動産の場合は登記事項証明書や固定資産評価証明書などを用意し、不動産の所有権移転登記手続きを行う必要があります。
最後に、必要に応じて税の申告・納税を行います。なお、相続時精算課税制度を初めて利用する際は、贈与額が基礎控除(年110万円)以下であっても、税務署への届出書の提出が必要となる点に注意が必要です。
【まとめ】賃貸物件を生前贈与する際はマンション経営の準備を整えることも大切
不動産を生前に相続することは、トラブル回避に役立つだけではなく、収益物件の早期贈与で資産の増加を抑えられ、相続税対策としても有効です。特に収益物件の場合、受贈者も家賃収入を子の教育費やマイホームの取得費に活用できるようになる点は、大きなメリットといえるでしょう。
ただし、受贈者に経営の知識や経験が不足している場合、収益を得られず赤字経営に陥る可能性もあります。もし賃貸物件を生前贈与するのなら、実績と信頼のある不動産管理会社やマンション管理会社に管理を委託するなど、経営体制を事前に整えておくのがおすすめです。
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※不動産の贈与における正確な税額計算は個別の状況によって異なるため、詳細は税務署や税理士などの専門家へご相談ください。